さえくれれば、同じ出して貰う金も、どんなに快よく貰えるかということなどを、のぶ子は、狭い家の中で、主夫婦に聞えないように、小さく、而も心をこめて話すのである。
 のぶ子の寄宿している学校は市ケ谷の方に在った。そこからはるばる下谷まで出かけて来、また麹町まで行こうとする心持を思い遣ると、おくめは、そぞろに可哀そうになって来た。
 やっと二十になったばかりの娘が、親の不運なためばかりに、何という苦労をすることだろう。
 正直にいえば、おくめは、あまり長女と気が合う方でなかった。不如意の中から片づけられ、充分な教育は勿論、女一通りの遊芸も仕込まれずに、根から東京育ちの相田の家庭に入って、ふさ子が人知れずいかほどの涙をこぼしたか、それはおくめにも、気の毒に察せられた。従って、彼女が、自分を親として、常に引け目を感じていること、ものの判らない女と思わせまいために、身なりのことから口のききようまで、何の彼のと干渉するのも、考えれば一面無理もないことと云えた。然し勝気なおくめには、それが、いつも胸にこたえた。時には、見栄ばかりを気にかける娘が、生れる時、棄てた良人の性格を、そのまま稟《う》けついでい
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