黄昏
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)燈《あかり》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12、257−18]
−−
一
水口の硝子戸が、がらりと開いた。
ぼんやりとして台の前に立ち、燈《あかり》を浴びて煮物をかきまわしていたおくめは、驚いて振向いた。細めに隙《あ》いたところから、白い女の顔らしいものが見える。彼女がその方を見たと判ると、外の顔は前髪を一寸傾け、
「今晩は」
と云いながら、残りの戸を全部明けて姿を現した。
「まあ、何だろう、のぶちゃんかえ」
緊張し、訝しげな色を湛えていたおくめの両眼には、忽ち何とも云えない暖い光が漂った。
「どうしたの? 今頃、学校から来たの?」
おくめは、菜箸《さいばし》を片手に持ったまま、戸口へ下りて行って、懐しそうに娘の風を見た。
「暗がりで誰かと思ったよ」
のぶ子は、華やかな桃色の半襟と、大柄な絣の上下ついの衣服に包まれて、夜目には、我娘
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