弱くなっているところへつけ込んで、母親もろとも、二度のだしに使おうとする下心が決してないと、誰が云えよう――がそれにしても……」
おくめの魂は、深夜の宙に迷って、幾度となく、沢屋の辺を彷徨するように見えた。
悪いなら悪いなりに、よいならよいなりに、直接彼の口から、何故東京へ出て来たのか、何故のぶ子へは便りをしたのか、訊き定めたい欲望が、体も火照《ほて》らすほど苦しく、強くおくめの胸にこみ上げて来たのである。――
うとうととしたかと思う間もなく、もう起きなければならない時が来た。
おくめは、寝不足と焦慮とで膨《は》れぼったい瞼を、強いて何気なく装いながら、定った朝の用事をした。
主婦の米子は、何も心付かないらしく、昨日の様子を訊こうともしなければ、話させようともしない。けれども、黙っているおくめの心は、刻々に満ちて来る思いで、今にも溢れそうになって来た。
珍らしい小春日和で、縁側には、畳の上まで長閑《のどか》な日が、ぽかぽかと差し込んでいる。
裏を返してほした夜具の濃い色などを渋い眼にまばゆく感じながら、膝をついて雑巾などをかけていると、彼女の手は、いつしか一つところに止っ
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