った。
「――姉さんの家で会ったことがあるの。――だから今度も東京へ来たって知らせてよこしたんだわ」
子供の時から、あんなに仕様のない父親と云い聞かせて置いても物心がつくと、自分に隠してまで会いたく思うのかと思うと、おくめは感動せずにはいられなかった。ただ、親子の縁が断ち難く深いばかりでなく、もうまるで関係ないものと思って来た自分と良人との間は、見えないどこかで、確かりと結び合わされていたのか、と驚くような心持さえするのである。
おくめは、深い思いをかくして、気強く、
「とにかく迷惑のかからないようにしなければいけないよ」
とつぶやいた。
「姉さんだって、一家を持っている体だし、お前だってこれから一人立ちをしようという大切なところだもの。また何かのことでひどい目にでも遭わされたら……」
「大丈夫よ。元はどんな人だったか知らないけれども、先に会った時なんか、ちっとも悪そうな人には見えなかったわ」
娘の言葉は、おくめの心に、何ともいえず、なごやかな思いを萌え立たせた。
「それは、悪いというのではないがね。――」
おくめは「それで、今はどこにいるのだえ、何をしているの?」という本能的
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