合わない訳ではなかったが、清五郎というその養子が、山師で、何ぞというと、大掴みに家の金を持ち出しては、どこかへ失くして来た。ただ一人血統を伝えた家の後継者という責任を負わされた彼女は、子供達が三人も出来てから、離縁の相談を迫られた。家が大事と思い込まれていたおくめは、烈婦になった心持で、離別を承諾した。その代り清五郎との間に生れた息子は戸主になり、彼女の一生と子等の将来は安全に保障される筈であった。その誓約にも拘らず、老齢な祖父が死ぬと、公証人を弟に持った義祖母のつなが、あらいざらいの財産を抵当に入れて、自分の甥に受けさせた。
 思いも設けない策略で家産を失ったおくめは、愕き憤って、法律に訴えた。けれども、何にしろ相手は商売人にかかっているので、予想通り事件が進捗しないうちに、何より代え難い、息子にまで死別した。
 皆で※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12、257−18]《むし》り取ってしまえば、分け前といってもさほど無い位の財産のために、おくめは、却って貧しければせずともよい心の苦闘を経て来た。それも、今では、徒に心の苦しみばかり彼女のために遺されたものといってよかった。僅か
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