云い分と、あっちの遣り口と、公の眼で見ていただいて、どっちが正しいか、それをはっきりさせたいばかりでしたことじゃあないか。ああやって、毎日顔と顔とを見合わせている裏で、あんな企らみがあったかと思えば――おばあさんも憎いが、判るところを判らせない検事にも、私は愛素をつかしてしまった」
 熱して話し、姉妹を見較べたおくめの瞼には、強い火照《ほて》りと一緒に涙が滲《にじ》み上って来た。
「それというのも、皆、お前達のお父さんが、ああだったからのことさ」
 おくめの声には、何ともいえず、寂しい曇がかかって来た。
「お前方のお父《とっ》さんさえ、確かり家を守っていてくれさえしたら、あれもこれも、皆、無くってすんだことなのさ。お前達は、親のおかげで苦労するとお思いだろうが……阿母《おっか》さんだって、……若い時から決して楽をして来たのじゃあないよ」
 ふさ子はうつむいて火鉢の灰をならし、のぶ子は、微《かすか》に涙組み、明るい茶の間の中では、誰一人口を利くものがなくなった。
 おくめは、野州の有名な織屋の後取娘に生れた。彼女は十八の時、ふさ子の良人の父方の親類から、養子を貰った。二人の間は、さほど折
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