ぼらなんでね。今月だって、新らしい本を買うとか寄附だとかいって余分のお金がいったのに、無くたっていい羽織なんか拵える気になるんだから」
 予期したことながら、おくめは、何と弁解しようもなかった。
「こうやって相当に店なんかやっていれば、高が二十円や三十円の金と思うだろうが、決して、どこにも遊んでいる金はないんですよ」
 ふさ子は、次第に、胸の衷《うち》の述懐を洩すような口調になった。
「相田だって、お役所の方がいつどうなるまいものでもなし、いざという時の要心に無理をして店を仕込んで置くようなものだもの……のぶちゃんだって、子供ではなし、ちっとは、自分の身の上も考えればいい」
 おくめは、いやでも、何か、のぶ子のために口添えをしてやらずにはいられない心持になった。
「それはそうだろうとも。人の出入りだけでも容易なものじゃないから――のぶだって、小さい時から相当に苦労をしているのだもの、まさかそれを知らない馬鹿ではあるまい。――真個《ほんと》に、親甲斐なしで……厄介ばかりかけるね」
 ふさ子は、黙って、頭を傾け、眉をよせて簪《かんざし》で髷の根をかいた。
「阿母さんだって、どうにかなりそう
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