かさを、ここで、思う存分楽しみたいと、我知らず待ち望んで来たのではなかったろうか。
 おくめは、思わず、孫の寝顔を見守ったまま、
「姉さんも相変らずだねえ」
と呟《つぶや》いた。
「……気がせわしいもんだから……」
 のぶ子は、自分が連れて来て、あまり歓待もされない母親に気の毒そうに独言した。
 近所から鮨などを取りよせて馳走になっても、おくめは、まだ何かさっぱりしない心持で、おちおち味ってもいられなかった。途中で手間を取ったので、時間は、思いのほか晩《おそ》くなっている。
 銚子が後から後からと数を重ねるばかりで、奥の客も、何時帰るか、見当がつかない。
 おくめは、
「到底、今夜は相田さんにお目にかかって行かれそうもないね」
と、云った。
「あんまり更けないうちに帰らなければなるまいが――お前から、どうぞよろしく云っておくれ、のぶのことも、お世話をかけて真個に相すまないが、もう少しの間だから……」
 やや改って、自分のことが云われると、のぶ子は、母親の傍から、ちらりと姉を偸見《ぬすみみ》ながら、頭を垂れた。
「ええええ、そんなことは一向かまいませんけれどもね。――実はのぶが、あまりず
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