エッダ。
エッダ ああ。
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ところへ、ヨハネス、木履のような靴をはき、薄緑色の布の帽子、粗毛織の仕事着の装い下手の扉《ドア》から現れる。神経質そうな、細そりとした若者。
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母親 ヨハンかえ?
ヨハネス ああ。ただいま。
エッダ (糸車を片よせつつ、振返り、元気に)お帰り! どこに迷子んなっていたの?
ヨハネス (微笑み、エッダの丸い体の動くのを見ながら)戸外《そと》の風は、さっぱりするからね。
母親 (これも縫物をしまいながら)もうやがて、嚔《くしゃみ》の出そうな時節じゃあないか。雲を見るのも、夏だけにおしよ。……それはそうと、どんな塩梅だったね? あの渦は……。
ヨハネス ああ、あれの心配ならもう入用《いら》ないよ。すっかりぴんぴんして、他の羊どもと大|巫山戯《ふざけ》をやっていたもの。
母親 (棚から皿小鉢をおろしながら)よかったね。私は阿父さんの留守の間に一匹でも子供等に死なれちゃあ堪らないと思ったからね。(火をほげたり、鍋を掻き廻したりする)
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ヨハネス、エッダの傍に行き、
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ヨハネス
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