類の生活のより深正な幸福の希望や、正義へ向いての憧憬は時代から時代を貫いているのだ。三稜鏡は、七色を反射する。けれども太陽は、単に赤色に輝くものでなく、又紫に光るものでもない事を私共は知っている。一部分宛なのだ。勿論部分は尊い。然し、友よ、私は、只一部分丈に視野を画《かぎ》って、今は、青い時だ、俺はその青い中でも一番強い青色を持っているのだぞ、と云って誇る心掛にはなりたくないと思う。
青でもよい。赤でもよい。何でもよいのだ。只過ぎて行く瞬間の呼声に、くらまされなければ救われる。本道に即いて行ければ充分の感謝である。私共が努力しなければならない事は、今年やって来年になれば如何うでもいい事ではない筈なのだ。私共の魂に吹き込まれて生れて来たものが其を命じ、その命令の、その意向の絶大であると信ずるものによって動かされたいと思う。
尊敬すべき農夫は、決して土をうなう手練の巧妙と熟達とを、仲間に誇ろうとはしないだろう。土を鋤く事は、よい穀物を立派に育てる為なのだと云う事を知っているのだ。
○
私が去年の夏行っていた、或る湖畔には、非常に沢山黒人がいた。白い皮膚を持っ
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