を見た。
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魂がおしゃれを止める事は、一刻も早い方がよい。隈のない心が、間違いなくあらゆるもののしん[#「しん」に傍点]にまで徹して滲み渡れるように、私共は邪念を払って慎しまなければならないのではあるまいか。
どうぞ毎日が、本心で終始されますように――。誰でも本心は授っている。けれども其本心がいつも光っているのは、容易な事ではない。地上には、一日一刻と流転がある。或る問題、或る思想、而して或る亢奮――。自分の生活を純粋なものにしたい望を持って、或る人は、あらゆる今日の問題から、耳をそむけている。又或る人は、同じ目的で、今の主題の第一音を真先に叩こうとしている。
どちらの態度も、只其だけであったら寂しいのだと思う。
人類が生活している間中には、どんなに早く駈け抜けて仕舞おうとしても馳け切れないものがあり、又、どんなに自分では縁を切った積りでも、生命のある限り他人にはなり切れないものが、奥底の底に在るのではあるまいか。
何と云っても、本当のものは、死なない。今や昔と云う言葉を超えて動いている。私共は其を畏れ敬う心だけは、どうか失い度くないと希う。
人
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