一粒の粟
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)喫驚《びっくり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)青|天鵞絨《ビロード》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しん[#「しん」に傍点]にまで徹して
−−
○
或る芝生に、美くしく彩色をした太鼓が一つ転っていた。子供が撥を取りに彼方へ行っている間、太鼓は暖い日にぬくまりながら、自分の美くしさと大きさとを自慢していた。
すると丁度その時頭の上を飛んで行った小鳥が、何かひどく小さいものを彼の傍に落して行った。
気持の好い空想を破られ、それでムッとして見ると、薄茶色の粟が一粒いる。自負心の強い太鼓は忽ち小癪な奴だと思った。俺が折角いい心持で美くしい体を日に暖めているのに、何だ、此那見すぼらしい体をしている癖に突当ったりして! 其処で彼は
「おいおい、気をつけてくれ、俺が此処にいるよ」
と云った。
「私が何かしましたか」
「何かしましたか? 怪しからん。切角俺が好い心持でいる処を何故驚かせた」
「其は悪うございました御免下さい。け
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