れども私は貴方を喫驚《びっくり》させる為に落ちたのではありません。私は此処で生えなければならないのです。御気に障ったら御免下さい」
「生えなければならないと? 生意気な事を云うな、第一お前のなりを考えろ、小さくて、見栄えもしない茶色坊主で、フム何が出来る。俺を見ろ、大きいぞ、素晴らしく美くしいぞ、如何《ど》うだ此の光る金色を見て羨しくないかハハハ其にお前なんかは蟋蟀《こおろぎ》ほどの音も出せないじゃあないか、まあまあ俺の見事な声を聞いてから目を廻さない要心をしているが好い」
 其処へ折よく撥を持った主人の子供が来たので、五色の太鼓は益々活気付いて、黙っている粟を罵った。
「さあ始めるぞ、俺の声を聞かされてからいくら平あやまりにあやまっても勘弁はしないからな」
 そう云いながら、太鼓は打たれるままに、全力を振絞って大声をあげた。小さい癖に落付き払っている粟の奴の胆を潰させようとして、太鼓は体中に力を入れてブルブル震えながら遠方もない叫声をあげてたのである。
 けれども、一二度叩くと、子供はもういやだと云って打つのを止めてしまった。太鼓が余り大きな見っともない声を出すので、子供は嫌いに成っ
前へ 次へ
全8ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング