た人々が彼等をどんなに待遇するか、どんな心で彼等を見ているか。
 解放された奴隷は、又解放された奴隷として彼等の子を遺して行く。多くの人が心の中でいやに思っている。或る時は、如何うにかなれ、と呟くかもしれない。然し、嫌われながら彼等は殖えて行く。後から後からと生れて来る。自分がいやでも、ひとがいやでも、彼等は生きずにはいられないのだ。

   水浴をする黒坊

 水浴をする黒坊。
 八月の日は光り漣は陽気な忍び笑いに肩を揺ぶる――青|天鵞絨《ビロード》の山並に丸く包まれた湖は、彼等の水槽。
 チラチラと眩ゆい点描きの風景、魚族のように真黒々な肌一杯に夏を吸いながら、ドブンと飛び込む黒坊――躍る水煙、巨大な黒坊、笑う黒坊、蛙のような黒坊。

 卿《おまえ》はどうして其那に水が好きなのか。
 如何うして其那に笑うのだろう、卿等《おまえら》は――

 小粒な雨が、眠った湖面に玻璃《ビードロ》玉の点ポツポツを描いても、アッハハハハと卿達《おまえたち》は、大きな声で笑うだろう。
 暗紅い稲妻が、ブラックマウンテンに燃立っても、水に跳び込む卿等は同じ筏から。
 ジャボン……ジャボン……
 巨大な黒
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