兵児帯の赤や黄色が清潔な床の上にくっきり浮立って見えた。知らぬ朝子が入って行ったせいか、子供が、割合おとなしく遊んでいる。朝子は、その行儀のいいのが少し自然でないように感じた。そのことを云うと久保は、
「今、おとなし遊びの時間なんですよ」
と云った。そう云いながら彼女は、窓を見廻していたが、
「ああいますよ」
窓際の子供達に向っておいでおいでをし、
「今村さん、こっちへいらっしゃい」
と呼んだ。若い先生は顔をあげ、子供と久保とを見たが、直ぐあちらを向いた。
「何なの、いいの、呼んで」
「かまわないんですよ」
紺絣の着物を着た、頭の大きい男の児が、素足へ草履をはいて、久保の傍へ来て立った。
「さ、こちらの先生に御挨拶なさい」
子供の肩へ手をかけ、自分の身に引き添えた。素直にされるままになっているが、三白眼のその男の児が久保を愛しても、なついてもいないのは、表情で明らかであった。芸当を強いるようで、朝子は、
「およしなさいよ」
と止めた。
久保は、去りたそうにしている児の肩を押えたまま、なお、
「今村さん、先生の云うことは何でもきき分けるわね」
などと云った。
朝子は、彼女の部屋
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