休んでいた。髪をぐるぐる巻きにして、セルの上へ袷羽織を着た久保は、やせた肩越しに、朝子を振り返り、
「私の方も見て下さい、そりゃ私、骨を折っているんですよ」
 渡廊下の踏板を越えながら云った。
「みんな若い人達ばかりで、ただおとなしく四時まで遊ばしときさえすればいいと思ってるんだから。――そんな人の方が、またお気に入るんですからね。私喧嘩したってこうと思うことはやって貰うんです。いやな女だと思っているだろうけど、いざ子供を動かすとなると、どうしたって、そりゃ、私でなければならないことが起って来るんですからね」
 久保は、自分一人で切り廻しているように云った。そして、変質な子が一人あって、それが誰の云うこともきかない、髪をむしって暴れるようなのを、自分がこの頃すっかり手なずけた苦心を朝子に聞かせた。
 別棟になって、広い遊戯室や、医務室や、嬰児室があった。遊戯室の板敷に辷り台や、室内ブランコなどあって、エプロンをかけた幼い子供達が遊んでいた。先生が、やはりエプロンを羽織って、一隅に五六人の子供を寄せて、話をしてやっていた。室じゅうに明るい光線がさし込んでいた。その中で、子供のエプロンや、
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