厭んなったらその職業すてるだけだ。それじゃ、つまり女も男なみに擦れて、而も、彼等より不熟練で半人前だというのが落ちなんじゃないの」
「女性文化なんてことは、そこが出発点だね」
 大平が言葉を挾んだ。
「然しね」幸子が寧ろ大平に向って云った。
「女性文化必ずしも、女は内にを意味しやしないからね。――あなたも知ってる、ほら日野、東北大学のあのひとの奥さん、もう直き立派な女弁護士ですよ」
「変てこな表現だけど」
 ちょっと笑い、朝子が、
「私のは、超女性文化主義よ」
と云った。
「その奥さんの方、きっと、男の弁護士が利益の寡《すくな》い事件に冷淡だったり、自分の依頼者を勝たせるためには法網を平気でくぐったりするのに正義派的憤慨で、勉強をお始めんなったのよ。また、女が罪を犯す心理は、女に最も理解される、そこまでが女性文化じゃない? 謂わば。それなら、自分が楯にとったり、武器にしたりする法律というものはどんなものか。どんな社会がこしらえたか。社会とはどんなものか。理窟っぽいみたいだけれど、この頃、自分の職業でも、追いつめて行くと、何だかそこまで行っちまうのよ」
「――つまり我等如何に生くべきか、
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