のなんかありませんけれど――、若し出来たら、雑誌か新聞に働いて見たいと思います」
「そういう方は、ここにいる朝子さんに持って行けば、何かないもんでもないかもしれないけれど……ジャアナリストになるつもりなんですか? 将来」
 そこまで考えてはいなかったと見え、娘達は身じろぎをして黙り込んだ。幸子は、自分まで工合わるそうに微笑を顔に浮べ、暫く答を待っていたが、やがて学生っぽい調子で、
「――その位の気持なんなら、却って勉強つづけていたらどうなんです」
と云った。
「ひどい不景気だから、きっといい口なんぞありませんよ。あったにしろ、そんな口にはあなたがたより、もっと、今日生きるに必要な男が飛びついています」
 不得要領で二人が帰った。窓際へ椅子を運び、雑誌を繰りながらそれ等の会話をきいていた大平が、体ごと椅子をこちらへ向け、
「ふうわりしたもんだな」
 好意と意外さとをこめて、呟いた。
「会社に働いている連中も、ああいう娘さん達のワン・オブ・ゼムか」
「簿記や算盤が達者なだけ増しかもしれない」
「然し、変ったもんだなあ」
 大平が、真面目な追想の表情を薄い煙草色の細面に現わして、云った。

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