が見えた。朝子は、その姿を遠くから見た瞬間、自分達が真直ぐ還って来たことを心からよろこんだ。
「お待ち遠さま」
「何だ! それっくらいなら一緒に来りゃいいのに」
 大平が渋いように笑った。
「君が案じるって、敢然と僕の誘惑を拒けたよ」
「ふうん」
 先立って門を入りながら、幸子は、気よく、少し極りわるそうに首をすくめ、
「――今どこいら歩いているだろうと思ってたら、自分も出たくなっちゃった」
 茶を飲みながら、朝子は大平が往来で提議したことを話した。
「――頼みんならない従兄よ、あなたがいれば、まいちゃうっておっしゃるんだから」
「そうさ、素介という男はそういう男なの、どうせ。――アッペルバッハが、ちゃんと書いている」
 幸子は、さっぱりした気質と、その気質に適した学問の力とで釣合よく落つきの出来た眼差しで朝子と素介とを見較べながら云った。
「従兄の悲しさに、あんたも私も、どうもサディストの型《タイプ》に属するらしいね。アッペルバッハの新しい性格分類法で行くと。だから、マゾヒストの型で徳性の高い朝っぺさんにおって貰って調和よろしいという訳さ。私なんか、同じサディストでも、徳性が高いから
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