一緒に行こうかな」
「そう?――」
そこに女中がいた。頭越しに朝子は大きな声で、
「ちょっと」
と幸子を呼んだ。
「大平さんがいらっしゃってよ。ここまで来て」
「何さわいでいるのさ」
幸子が出て来た。
「どうも声がそうらしいと思った」
「大平さんも外お歩きになるんですって。あなたも来ないこと? 少し遠くまで行って見ましょうよ」
「来給え、来給え、本は夜読める」
「本当にいい天気だな」
幸子は、瞳をせばめ、花の終りかけた萩の上の斑らな日光を眺めていたが、
「まあ、二人で行っといで」
と云った。
「外もいいだろうが、障子んなかで本よんでる心持もなかなか今日はわるくない」
大平と連立ち、朝子は暫くごたごたした町並の間を抜け、やがて雑司ケ谷墓地の横へ出た。秋はことに晴れやかな墓地の彼方に、色づいた櫟《くぬぎ》の梢が空高く連っているのが見えた。線香と菊の香がほんのり彼等の歩いている往来まで漂った。石屋の鑿《のみ》の音がした。
彼等は、電車通りの文房具屋で買物をし、菓子屋へよってから、ぶらぶら家へ向った。
「――十月こそ秋ね……お幸さんも来ればよかったのに」
「住まずに考えると、ちょいと
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