ゃべっていた。そこへ、諸戸が外から帰ってきて、翌日川島を呼びつけ酷く詰問したのであった。
 川島は、小心そうに眉の上に小皺をよせ、
「びっくりしちまった、――とても憤慨して罷めさせそうなことを云うんだもん」
と苦笑した。
「一体何時頃だったの?」
「八時頃ですよ」
 伊田が朝子に、
「小谷さんて人、知りませんか」
と訊いた。
「さあ……河合さんなら知ってるけれど」
「ふ、ふ、ふ」
 伊田も川島も笑った。
「――色白な人で……幾つ位だい? もうよっぽど年とってるんだろう?」
「三十位なんだろう」
 弱気らしく川島が答えた。
「何でもないなあ、解ってるんだけれど……その時だって。話しでもすると思って、いやな気がしたんだろう」
「この頃馬鹿にやかましくなっちゃったね、こないだ矢崎さんもやられたらしいよ」
 朝子は、
「でも、諸戸さん、一種の性格だな」
と云った。
 諸戸は、女房子供を国許に置き、一人東京で家を持っていた。まるで一人暮しなのに、家の小綺麗なことは評判であった。現在彼等で経営主任のようなことをしている、そして将来彼のものになるだろう或る女学校長とは特別な関係で、半ば公然の秘密であ
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