ったが、諸戸は近来、働き会の方の河合という女といきさつがあった、もう一人そう云う人が働き会の中にある。そんな状態であった。
のほほんで、その河合と連れ立って帰るようなこともするのに、時々川島の場合のようにぶざまな痙攣《けいれん》的臆病を現すのであった。
「気のいいところもある人なんだから、あなた、ただ叱られていずに、ちゃんと自分の立場を明かにして置くといいんですよ」
朝子は川島に云った。
「こちらがしゃんとして出れば、じき折れる人なんだから」
「憤ると、でも怖いですよ」
川島は、いかにも学生らしく、眼を大きくした。
「とてもでかい声で『君!』ってやられると、参っちゃうな。云うことなんか忘れちゃう」
「だから、あなたがそれよりもっとでかい声で『何でありますか!』って云えばいいのよ」
多分、相原の口添えで、川島を罷めさせることは中止になったらしいと云うことだった。相原は、諸戸と同郷で、ころがり込んでいるうち、府下のセットルメント・ワークを任され、今では一方の主になっている男であった。伊田と川島は異口同音に、
「――相原氏の方があれでましでしょう」
と云った。
「男らしい点だけでもま
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