然し精神は昔の主脳者と共に死んだ。理事、その他役員が上流婦人ばかりなので、実権は主事、または庶務課長の諸戸吉彦にあった。女は女なりに、男は男でこの団体の内部を野心の巣にした。
雑誌部の仕事の性質と、自身の気質の上から、朝子はそれ等の外交や政治に関係出来なかったが、目につくことは多くあった。
社会事業の一として、内職に裁縫をさせていたが、工賃は市価よりやすかった。ちょっと不出来な箇処は何度でも縫いなおさせた。
「それじゃ、つまり、いくらでも払える人に、やすいお仕立物どころをこしらえて上げてるわけね。裁縫学校じゃない、内職なんだから、もう少しどうにかするのが本当ですよ」
朝子は、初めの時分、そんなことも云ったが、永年そこで働いている園子は、女学校長のように笑いながら、
「そんなこと云っちゃ、何も出来ませんですよ。これだってないより増しなんですから」
と、とり合わなかった。社会事業全般、ないより増しの標準でされているらしかった。
川島が叱られたということ、それも、この働き会の方に関係していた。
W大学へ通いながら、庶務に働いている川島が宿直のとき、小使室で、働き会の小谷という女とし
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