しつこくその効果をためし、きらわれる。
「何々をこうしたらいいだろう」
「はい、これからそう致します」
「本当にそうした方がいい。何でもない一寸したことだもの。自分が働くに働きいい方がよい」
「――」
「ね、本当に、そうおしよ。いそがないが」
 きく方でうんざりしてしまう。
 ○今まで人に思うままのさしずや命令を与えられなかった分を、今しようとするが如く。
 私は寂しき微笑を洩す。

     志賀直哉氏のものをよみ乍ら

 自分達夫婦に、旅行と性慾の問題は密接な関係のあるものとして扱われない。どう云う訳か。例えば私が何処へか出かける。出かけたい、よい連がある。金がある。それですます。又Aが出かけるとしても、先で、彼が別な女と肉体的の関係を生じようなどとは思ったこともないし、殆ど考えたことさえない。それが私共に別々な旅行ということを単純にあつかわせる。
 私の心持では
 Aが、種々な女の美しさなどにほっこりしない品行方正さ、実は感受性の鈍さが――あるのを知って居る故
 Aが、そういう純潔さに自繋せられて居るという知識、私自身のうぬぼれ等、すべてがコムバインして一つの信用と云うものになっ
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