とが、小さく、はっきり見える。中天に昇って居る故か月は、不思議に小さく近く見えた。何か見えない糸で天から吊るされ、激しい風が吹き渡る毎に、吊下げられた星や月も揺れまたたくように思える。
又他の風景。
七八月のような大暴風雨の後、梅雨がすっかりはれ上った。柔い若葉をつけたばかりの梧桐はかぜにもまれ、雨にたたかれた揚句、いきなりかっと照る暑い太陽にむされ、すっかりぐったりしおれたようになって、澄んだ空の前に立って居る。
六月の樹木と思えない程どす黒く汚く見えた。
六月二十四日
見えないところから、月の光が廊下に流れ込んで居た。硝子戸を透して、地に堕ちて居る樹木の陰や黒々と立って居る松の深い梢を見ると、自分は急にうすら寒い、凍りついたものを見えるような心持に打れた。
◎
“暗い部屋から茶の間の方に行こうとすると、畳廊下の下に、錯綜して、明るく、暗く走せ違って居る部屋部屋から洩れる光りで、自分は変な目まぐるしさを覚えた。襖に当って屈曲した三尺幅の光の波が、くっきり斜に、表現派の舞台装置のように、光度を違えて、模様を描いて居る。
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