と云う
それを或日本の海軍将官が英国で買った。六年の間に一分進んだばかりなので、この次英国に行った時、店に行ってほめた。そしたら、六年の間に 例え 一分でも進むようなことがあったら、標準時計にはなりません。これは久しい間試験したのですからと云って、新らしい別なのと代えてくれた。
この話を基ちゃんからきき、自分はそんなに正確な時計を持って居る人間が若し神経質だったら、どんなに恐ろしく、生命の粒のこぼれて行くのを感じるだろうと思った。
始めそんなに正しいのを持ったよろこび。やがて不安。
その心持は短篇にまとまる。
○時計で南北を知るには、直射光線にうつる短針のかげをかさね、十二時とそれとの中央を南とし、正反対を北。
○列車の速力は、二十二秒半にこすレールのつぎめの数が時数。
ドイツに Wanderlied の多いこと Faust でさえ、一種のヴァンデルリードではないか。
ドイツ人の心持。
イギリス人にない。
日本人は?
六月二十三日
梅雨のはれ間、激しい西北の風とともに空はすっかり霽《は》れ上った。
庭に出、空を仰ぐと、深い一片の雲もない天に、月と星
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