る強さ、I want because I want と云うところが、私共すべて林町の者にどぎつく、たまらなく見えるのだ。その社会の層の比較として見るとき面白し。
自分として困ることは、Aの貧しさは、彼の心の寡慾、学究によると思った。が、そうばかりではないと云うことだ。
Aの勉強
まるで誰かに恩でもきせるようにほこり、同情されることをよろこびとすると見た。その反動で、自分は勉強について一寸もぐちは云うまいと覚悟した。
たのまれてするのではなし、自分が愛し仕事をするのに、何をグドグド云う! と云う心持。
九月一日
今年は梅雨がひどく長かったので、八月に入ったらちっとも雨が降らなかった。
それが、三十一日の午後から少し模様があやしくなり、その夜は、珍らしいざんざ降りになった。
空には、東の方に凄い風雲が伝説のぬエのように浮び、俗に雨つぼ、と云われる西南の文珠山の上にはとけたような雨雲が見えた。始め大変な風、夜になって雨。
一日の朝は、折々さっと白雨が来、数回地震があった。老人は、「自分等の子供の時、天変地異と云う本をよんだことがあるが、ひどく乾いたで
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