だろう、僅に白い大きな円い月とまばらにとぶ雁で夕景を偲ばせる湖面に、そばだつ山は、なだらかな、浮世絵風の山である。ところが、一つの金じきりを距てた此方の三井寺の鐘楼をのせた山は、峨々としてそびえ立つ、北清の山嶺に似て居る。
彼女は、それを眺めて居ると何とも云えず悲惨な、苦しい心持が迫って来た。
恐らく、彼女の母や祖母は、この屏風を一つの栄ある飾として、彼女等の一世一代の婚礼をしたのだろう。生活の無智、無感覚、頭の低さが、この屏風を見るに堪えることで代表されて居るようにも思う。
惨酷な冗談
A、やきのりの罐をいじって居る。
私、吉田さん達にこの海苔ではないのを買っていらしったのでしょう。やっぱり男ね。
A、あれ丈だったろう? 僕が三越へ買いに行ったのは。ぐずぐずして居ると、いろいろほしくなるから、さっさとかえって来た。
私、まあ! ハハハハそうね、私の一番欲しいものがあるのは、食料品のところと、家具のところだわ、……家具のところが一番多いわね。
A、だから、やっぱり、あれなのさ、何とか彼とか云って。
私、――グランパだって、そうじゃあないの。
A、僕は嘘を
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