自動車がとび過るのが見ゆ
○プラタナスの下のベンチ
緑色のコートをきた女、断髪の女とかけて居る。断髪の方の髪の工合をコートがなおしてやって居る
通行人
ポートフォリオを抱えた爺、学生、アルパカの上っぱりをきた職人、若い女――浴衣、すあし、唐人まげ 特に若い女断髪の方をしきりに見てゆく
男却って感情あらわさず
女皆 おや、何とか何とか思ってすぐ。
日比谷交叉点
十文字に馳る電車、赤い旗、青旗
白ズボンに赤すじの入った洋袴《ズボン》をつけた海軍軍楽隊の男が、三人ぬかるみをとびこえ公園に入った。公園の入口にはウインネッケ彗星大歓迎会 音楽と映画の夕べと云う立て札が出て居る。
円たく、パッカード、セダンの硝子扉の中に白粉をつけた娘の頸足が見える。赤い毛糸帽が自転車でとぶ。
荷馬車が二台ヨードをとる海藻をのせて横切る。
男の児が父親に手をひかれて来る 男の児の小さい脚でゴム長靴がゴボゴボと鳴った。
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〔欄外に〕
ウインネッケが二十七日地球に最も近づく。前日の百五十三万里に比して三万里近くなって居る一時間正ニ千二百五十里 一分分にしても二
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