ね、こういう音は馬力を出して居る[#「る」に傍点]に|違い《チ[#「チ」に傍点]ガエ》ない 音でわかりますよ」
 うるさい、うるさい

     H・Kのいたずら

 文学少女が来る。
「私小説かきたいんですが」
「あなた恋愛をしたことがありますか」
「いいえ」
「恋愛もしないで小説かこうなんて――じゃ例えばですね、私を恋の対象としてですね、あなた私とこうして居るの、心持いいですか?」
「ええ」
 そんなことで、娘くたくたにしてしまう。やがてつれて箱根などにゆく。

     四月二十八日 那須

 ○まだ若葉どころかやっと芽のあま皮がむけたばかり
 ○笹芝にまじって春輪どうの小さい碧い色の花が咲いて居る。
 ○山の皺にまだ雪アリ
 ○四五月頃の温泉あまりよくなし。
 ○枯山に白くコブシの野生の花 遠くから見える景色よし

     都会の公園

  日比谷公園 六月二十七日
 ○梅雨らしく小雨のふったり上ったりする午後、
 ○池、柳、鶴
 ペリカン――毛がぬけて薄赤い肌の色が見える首、
 ○ただ一かわの樹木と鉄柵で内幸町の通りと遮断され 木の間から黄色い電車、緑色の水瓜のようなバス、
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