欄外に〕
 その時自分、一寸可笑しい。すると松川やの女房、冷笑して、傍の運転手を一寸かえり見た。
[#ここで字下げ終わり]

 謡をうたう、同乗の子供に
「お嬢さん、何か音が聞えますか?」
 自分の謡のことを云うなり、子供わからず
「……」
「ねえ嬢ちゃん(ジ[#「ジ」に傍点]ョちゃんと云わず東北的にジョ[#「ョ」に傍点]ーちゃんという)何の音だろう」
 又謡をうたう。母親
「何でしょうね」
と世辞にいう。
 子供
「ピーンていった」
と小さい声で答えた。自動車が小砂利をとばし、車輪に当ってピーンとそのとき鳴ったのだ。
 その男少し低能のようで、「水車、水のまにまに廻るなり やまずめぐるもやまずめぐるも」
 細い声を無理に出して見たり低い声を出したりしてうたう。
 つれの男迷惑そうにしてだまって居る。

「いくらかのぼりだろ[#「ろ」に傍点]うかな」
「ならし六度の勾配になって居ります これからずーっと上りになります」
「ふーむ、ずーっとね」その男松川やの細君の手真似をする――手をずーっととあげて。やがて、ギーアをかえ爆音つよし
「ほらのぼりだな、音《おと[#「と」に傍点]》でわかっる
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