高い空にある。変な、ぼんやりした悲しいような心持。いくつ位だったろう、八つか九つか?
日々草
日々草から、キハツ性のゼラニウムの葉から立つと同じような香いがした。根を熱湯につけてさすと一日一日、新しい花がさくと云ったが咲かず、二日目に、葉ばかりになった。
柳やの女中
薄馬鹿で色情狂、
甚兵衛の家に肴をとどけて来て、かえりになかなか柳やへ戻らず。女房丁度雨がふり出したので傘をもって迎いに来る。行き違いになったのだろうと云ってかえる。その間に女は、線路のどこかで、人足に――土方に会い、お嫁に来ないか、女房にならないかと云われ、そのまま一緒に夕暮二三時間すごす。すぐどうかなったのなり。
この女、人を見れば、お嫁にゆきたい、世話をしてくれないかという。
翌日、あの土方と約束したから、と云って行く。土方居ず。それから又数日後土方と会い暫く一緒に暮す、土方転々として去ったので、又柳やに戻る。
そして、或朝しらしらあけに、隣の男のところへ夜這いし、かえるところを巡査に見とがめられ詰問され、姙娠五ヵ月のことから、その子はだれの子かわからないことから、鎌倉で巡査と関係して居たことまですっかり話す。
巡査は、敏腕と云われる、二十七八歳の生若い、ものを知らない、巡査を天下一の仕事と心得て居る奴、風紀上など些か微力をつくしたい、と云いたいのでしつこくきく。女房困り、前から気が有った円覚寺の寺男と一緒にさせることに急にし、その男をよぶ。眼玉の飛びぬけたような、口をあいた馬鹿。形式の見合いをさせ、おなかのことも承知でいよいよよいとなる。男曰く
「じゃあこれから毎晩来るが、あなた、と呼ぶんだぞ」
馬鹿女うれしそうに
「はい」
○肝癪のいろいろ
或中尉、ひどいカンシャクモチ
何かをカンにさえ、いきなり庭にお膳を放り出し、膳がひょいと立つと、それがシャクで、わざわざ出て下りて、ふみつけこわす。
又
同じ人
ひすけた風呂桶にどうしても、水をはれと云う、だめです、いやどうしても一杯にしろ、と駄々をこねる。
きりょうのぞみでもらわれた十七歳の妻、それがたまらず逃げかえる。
実家近くで、近所の子を抱いて居ると、馬にのって来かかった元の夫――中尉、ふいと馬を下り、抱いて居る子をあやした。愛し(妻を)未練があったのだ。然しその十七の女、そ
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