ヘない筈と、次に鯉口をくつろげてゆく。又駄目。
四度目に自白して、ニコライの唯一の助手となり生涯を倶し、ニコライはどの位――さんにたよって居たかしれぬ。二人で日本最初の伝道を始めた。
○ニコライの翻訳を手伝う人に、京都の中西ズク麿さんという男あり。大した学者。不具。手足ちんちくりんで頭ばっかり大きい。歩くに斯うやってアヒルのように歩く。その人がニコライの助手で「さあズクマロさん仕事をしましょう」と笑い乍らニコライ、ちょいと傍の椅子にかけさせてやる、そして自分側に坐り、ユダヤ、グリーク、ロシア聖書参考して聖書翻訳にとっかかり熱心に働く。
[#ここから1字下げ]
〔欄外に〕
ニコライ大きい実に堂々たる人、ズク麿さんニコライの腰きりない。それがいつも仕事は一緒で、はなれず。
[#ニコライとズク麿の絵(fig4204_01.png)入る]
こんな形、しかし美しい心の結び方!
[#ここで字下げ終わり]
○ニコライのいうことは皆心服した。
○いよいよ体がわるくなったとき聖ルカに入院。私死ぬか活きるか教えてくれ、死ぬ。では何日もつであろう。はっきりは分らぬが十日。ではこうしては居られぬ、十日あれば相当の仕事が出来る。
早速かえって、祈祷書の翻訳にとりかかった。又ズク麿さんをとなりにかけさせ、自分訳す、ズク麿さん歎文的日本語になおす。
十日働き、その翻訳もすみ、独り部屋でロシアへ報告書を書いた。終ってペンをおき傍のディ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ァンに横った。それきり。看護婦心配してやがて来たときにはもう死んで居た。平和に、立派に、壁の方に顔を向けて――聖画があった?
それは美しい午後か?
ズク麿さんとニコライの友情に美を感じ、その死をも美しいと思う。
天保さんの結婚
神学校、司教の息子、いつまで経っても卒業せず。シベリアへ通弁。青森の大金持の男、信者、娘一人、後とりの後見もして欲しいから学問があって、人物の出来た人、
そこで、結婚ブローカーがあって、
「それじゃいい人がありますっていうんですね、司教の息子それじゃ立派なもんだろうって云うんで先は承諾。親父は職業がなくって困って居るんだから一つ何でもというわけ。当人はすきな人もあってのり気せず。ことわるにも一遍まあ御覧なさいとブローカーが云うので行く。
後へ引けないことになって結婚、
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