A盗られたことも何でもないような心持――所謂、罪悪などというものから遠いような心持。
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理屈っぽい母の会話
ね、一寸、おばあさんにきいてごらん、そんなこと云って泣いていいもんかどうか。
おや、この子は降りないよ、いくら降りろ降りろってっても降りないんだね。
○二人のしわい四十すぎの独身男と夫との散歩
浜中、A、銀座、
浜中、独身男らしく、洋品店などしきりにのぞく。
Aは食物のことばかり気にかけ、そして二人とも結局は何も買わず。
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〔欄外に〕ぽつぽつ雨、浜中、帽中をいたわって大さわぎをする。
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ラジオニュース
「松島事件」の○○氏は保釈出獄しました由、大阪電話。
From Annette & Sylvie
“Annette felt that, alone, she was incomplete; incomplete in mind, body and heart.”
“She had reached the time of life, when one can live no longer without a mate.”
○
「檀那様、表で赤ちゃん抱いてこっちのすること見て居るの、まあ、おかしーいったら」
細い妙に抑揚のある話しぷり。
「いたいでしょう、おじいさん、どうなすったんです」
「たくさん買っていらしったのね、おじいさん、五十銭?」
沢山しゃべり、おじいさんおじいさんという。がその女の声には何だか愛がとぼしくうるおいがとぼしく、半分子供あつかいにしておじいさんというようなところあり。親身の孫ではないらしい。孫の嫁、そういう気あり。
駿河台のニコライ大主教
○日本に五十五年も居て明治45年に死んだ。来たのはハコダテの領事館づき。その頃はこだては榎本武揚の事があった故か仙台の浪人が多く居た。一人、四国の漢学者の浪人アリ。攘夷論の熾なとき故一つ殺してやろう、その前に何というかきいてやれと会った。ニコライ、まだ来たて故日本語下手だが話して居るうちに迚も斬れず。空しくかえる。
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〔欄外に〕○丁度一八六〇年頃フナロードの始った頃。
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こんなこと
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