石はない。胆嚢炎らしいです
いよいよ病名がわかった。が、若い医者が好意的に話してくれたので、主治医は何にも説明しない。「よらしむべし」という風だ。
○夜、始めて独りで横わり非常に安静だ。然し 室にはまだファイエルマンの臥て居た寝台がある。静かな夜の中で、そこから彼女の寝息が聴えて来るような気がした。
この自覚から林町の家のことを偲い出し、憂鬱を感じた。さぞ 家じゅうに英男の若々しき二十一歳の息、跫音、笑声ののこりが漂って居ることであろう。そこに住む。やさしくないことだ。
○日
Gが来た。
――窓のそと どんな景色? 私、まだ知らないのよ
――云ったげましょう、樹が三本、隣の建物
――それっきり?
――それっきり。
「知られざる日本」という自著をくれた。紺と黄との配色。自動車、蓑笠の人物、工場の煙突、それらの上空には飛行機のとんで居る模様だ。日本東京の或ものを捕えて居る。
月曜
ニャーニカが二人で私のシーツをとりかえ乍らの話。
――この毛布二十四|留《ルーブル》したんだって
――十六留でいい厚いのがあるよ
――だってアレキサンドラ・――カヤがそう云ったもの
――十留位足
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