。なおり切らないところを、そういう旅行で疲れ、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で再び許可を得るために医者歩きをし、愈々《いよいよ》まだ駄目だときまって、クリミヤへ戻る頃は一ヵ月半の休養は元もこもなくなって居るであろう。
療養所の医者と勤務先との間に連絡ないことは、恐るべき金、時間、精力の浪費を来して居る。消耗をいとわぬロシア人のうねりの大きな純然たるロシア的不便さだ。
○日
ファイエルマンがこういう話をした。レーニングラード附近の或田舎での出来事だ。
誰かが七歳と四歳になる二人の女の児を雪の深い森へ連れ込み零下十何度という厳寒《モローズ》の中へ裸にして捨てて行った。
女の児は凍え始め劇しく泣き出した。
もう日暮で――冬は午後四時にとっぷり暗くなる――折から一台の空橇が雪道を村へ向ってやって来た。
森の中から子供の泣き声がする。百姓は恐怖した。チミの仕業だと思ったのだ。彼は手綱をとって馬の腹をうった。森の中から児供の泣き声は次第に近づき小さい裸の人間の形をしたものが雪路の上へ飛び出して来た。そして泣き叫びつつ橇を追っかけ始めた。百姓は夢中で橇を速める。小さい裸
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