行ったら居なかった話をする。
 レーニングラードの家へかえって居た由。
 Kの病気は肺嚢がわるそうな様子だったがバセドーウ氏らしい。勤先の国立出版所から一ヵ月半休暇をもらってクリミヤの休養所へ行って居る。
――どんなだって?
――初めのうち大変よかったけれども、あとはそうでもないように書いてよこしました。でももう直きかえって来るでしょう。
――どうして? よくならなくても?
――休暇が一ヵ月半しかないんですもの、かえって又工合がわるいようなら、再び休暇をとって行くことになるでしょう、
――療養所の医者の証明でもっと居るわけには行かないんですか?
――いいえ。それは出来ません
 mは疑をはさまず首を振って いいえそれは出来ませんと云ったが、自分は此点は不合理だと思う。
 СССРの勤人が休暇をもらって休養所へやって貰える制度は非常によい。
 然し欠点がある。
 クリミヤ モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]間は少くとも五日ぶっ通しの汽車旅行を必要とする。汽車には食堂がついて居ない。チェホフが薬罐を下げて走ったように Kも駆けて食物を調えなければならぬ。
 一ヵ月半折角休養所に居た
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