身を発展させてゆこうとする心持が示されています。だから、三つのうち、一つでもよくいわれる「特異な才能」が示されているでしょうか。ジャーナリズムがすぐ買いにくるような意味での特異な才能は一つも示されていません。しかし、民主的な文学なら、必ずそこを基盤としなければならない民衆の健やかで平明で条理のとおった現実的判断が、この試作の基調となっています。読んで、アクのつよい、いやな後味は一つもなかったでしょう? 小さいけれども、まともなものです。『新日本文学』は第四号で、やっと、こういうふうに、かたよった文学人の文学でないもの、あたりまえの社会的人間の情理に立った文学への声を包括しはじめました。こういうふうに行かなくては、『新日本文学』の出る意味がないのです。
『真・善・美』という雑誌の九月号に「小林秀雄氏へ」という公開状を書いた小原元という人は、『新日本文学』に試作を発表した三人のかたよりは、ずっと既成文学のいきさつに通じ、その語彙をうけついでいますが、やっぱり一つの新しい力、新しい存在感の上に立っている方のように思えます。小林秀雄というような評論家は、こういう若い世代の感覚でしか批判しきれな
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