人間な惨虐を行い、あるいは行わせられたことを知りました。これは私たちすべてにとって心からのおどろきであり苦痛です。
だいたい芸術家というものは現実を綜合的に感じとる能力をもっているはずだと思います。人間としての良心、芸術家としての良心に立って書いたと思っていたものが、すぐその作品の後で信じがたいくらい暴虐なことが行われていたことがわかったとき、「北岸部隊」の作者は兵隊たちと、自分と、一般民衆に加えられた欺瞞と侮蔑にきびしく心をめざまされ、現実をそんなにいいかげんにしか扱えなかったことに作家としての自身をむちうたれ、悲しみと憤りにたえがたいところがあろうと思います。作家としての目の皮相さについて、慙愧《ざんき》に耐えないのが本当です。自分としての動機が純であればあるほど、この打撃は痛切なはずです。そこにこそ、その作家にとって昨日はなかった今日および明日の芸術のテーマが与えられているわけです。作家として意欲するにたりるモティーヴがあるわけです。そして、このテーマこそ、日本民衆の心の底からともに鳴ることのできるものではないでしょうか。今日、その作家が、忠実にその点をとらえて新しい自分の文学
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