ますが、それ以上、文学的人間的感動をもっていない安易な態度があります。もうちょっと気がきいたような作家は、自分が、疎開している田舎で文化的な要求を持っている国民学校の先生が逢いにきていろいろの話をしてゆく。その国民学校の先生はリベラリストで、戦争の見とおしについて懐疑的な批判を持っている人です。そういう対話を主人公との間に交します。当時あのように禁じられていた話題をとりあげる以上は、主人公がリベラリストであるという裏書をその国民学校の先生の話によって与えさせている。手のこんだアリバイの示しかたです。
ここに「北岸部隊」というものを書いた一人の作家があります。農村から、工場から、勤口から、学校から兵隊にされていっている人たちが、人間らしく悲しみ、人間らしく無邪気に歓び、死にさらされているありさまを目撃して、それを人々に伝えたい、という意企で書かれたものかもしれません。「北岸部隊」はそのもう何年か前に作者に印税を与えていまは人目にふれなくなっているものです。しかし、このごろ東京裁判で、私たちが知らされていることはどうでしょう。「北岸部隊」の兵士たちは、彼らが一人一人であったらしなかった非
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