』に出ていましたが、作者が目撃したその土地の人の蒙った残酷な運命、やがて非合理に殺されてしまうことを書いています。その作品で作者は、主人公たる自身がそれらの実状を目撃する立場にあるという、その深い事実についてなんと感じたかという小説の大切な最も小説らしい部分で、けっしてやぼに苦しんだりしていません。「この俺がこんな所にいるなんて! なんてことだ!」などとは書いていません。偶然持ってきた聖書に「われを求めざりしものに問い求められ、われをたずねざりしものに見いだされ、わが名を呼ばざりし国に」というところでハタと本を閉じた、と書いています。それで、主人公が心ならずも置かれている場所ということを現わしているつもりです。
 作者は、わが名を呼ばざりし国に自分はよこされている、つまり自分はこういうゴタゴタや残酷の中に関係していることは自分の希望ではないのだということを言外にほのめかしているのです。文学の問題としてみた場合、こういうテーマの扱いかたはきわめて浅薄です。
 丹羽文雄は報道班員として行った特攻隊基地の実際の腐敗を、自分の内面生活にかかわりなくつきはなし、それとして描写して、作品としては読
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