や、飛んで行った子供達を呼び集める母親の喚び声や……。
新らしく物珍らしい場所に来た者の興奮と、新来者を迎えたお婆さんの上ずった興奮とが皆一つになって、私の部屋に侵入して来る。あの声と、あの物音に対して、その一枚の頼りない木の扉などは物の数にもならない。私は一日中、揺れる梢に竦《すく》んだ鳥のように落付かない気分で三階に縮んでいたのである。
けれども、さすがにその大騒動は二日と続かなかった。翌日はまたもとの静けさに帰って下からは、ときどき、若い母親の甘えたように低声の小唄が聞えて来たり、どの子が吹くのか可愛い笛の音などがする。心持よくそれ等に耳を撫でられながら、下に牽《ひ》かれた私の注意は、また専念に仕事にばかり集注され始めたのである。
しかし、その無関心は決して長くは続かなかった。ようよう二三日経った一昨日、閑却されかけた「二階」は急にまた私共の注意を呼び集めるようなことを見せた。それは外でもない。ついその日の朝頃までいたに違いないお婆さん一族がいつの間にか姿を消して、そのかわり後から泊りに来た四五人の親子連れが、ちゃんと二階中を独占している。それのみならず、廊下から見える居間
前へ
次へ
全23ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング