したいと思うものですか、けれども考えて御覧なさい、留守の間に子供達に部屋中掻きまわされたり、好い気になって下の連中が時を拘わず勉強しているところへやって来られたとしたら、お話にもならないじゃあありませんか? そうでしょう」
 それはもちろんそうである。たださえ彼等の饒舌と、好奇心に僻易《へきえき》しているのに、若し万一上と下とが流通になって、賑やかな女連が、何を書いているのか、面白い字を書くものだなどと寄って来られてはほんとにどうにも仕方のないことになってしまう。
 気分が単純なだけしたい放題にさせて置くと図に乗って何をするか分らない。私がいない間に、大切な机の上をいじられたりすることを思うのは、たとい想像だけでも充分に私を脅かさずには置かないことなのである。
 ほんとになぜ人間は、純粋に他意なく心から心へと響きわたらないのだろう。なぜ光り動く直覚がないのだろう。なぜもっと触手ある感覚がないのだろう。
 こういうことに逢うと私は苦しまずにはいられない。私の性格として、あっちがああ出るならなに拘うものか、こっちもこう出てやれという考えかたは出来ない。そして私の心の中には二重の苦痛が湧くの
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