屋かを、また今来ている女に貸す相談をしているのだそうだ。私はそれを聞くと、利口なものだなと思わずにはいられなかった。
 お爺さんお婆さんは、新来の彼女等にいくらでも高価《たか》く自分達の部屋部屋を明けわたして利益を得ようとする。借りた彼女は、また借りものの一部分でもを又貸しして、払う金を浮かばせようとする。まるで鼬《いたち》ごっこのようである。思いつかないような遣繰りをする周密さには驚ろかされるけれども、そんなにもセカセカと気を配らなければ生きても行かれない世の中なのかという考えは、心を暗くする。何かしきりに耳を傾けている彼に、私は独言《ひとりごと》のように呟いた。
「そんなに敏捷《スマート》に立ち廻らなければ暮せないのかしら――」
「さあ――……」
 すぐ後を続けて何か云おうとした彼は、急に不愉快な表情をしていずまいをなおした。
「御覧なさい、あんなことをいうからユダヤ人は人に嫌われるんだ」
「何が?」
「下の女がね、上はゆっくりしているのだから若しこっちの工合が悪かったら、いくらでも三階を使えば好いなどと云っているんです」
 今まで漫然と筆を運びながら聴き流していた私は、この言葉で
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