と理窟では知りながら、
「嘘《うそ》だい! 嘘だい!」
「そんなことあるもんか!![#「!!」は横1文字、1−8−75]」
と泣きながら怒鳴って、地面をドンドン蹴とばしているのを見るような心持がする。
ジイッと心を鎮《しず》めて考えて見なければならないことがありながら、自分でもそれのあることは知りつつ、それに思いきってぶつかってみるだけの勇気がなくて、ワイワイ大きな声や足音ばかりを立てて、はぐらかしているような気がして堪らなかった。
平時は、何とか彼とか思っていても、イザとなると、自分は小人だということがしきりに考えられて、その晩はよく眠られなかった。
次の日、或るところで、或る尊敬し愛している先生にお目にかかったとき、弟の病気のこと、自分の厄年のことなどをお話しした。
そして、厄年などというものは、人々の生理的心理的の一転期を警告的に教えた、故人の符牒《ふちょう》に過ぎないものだと思ってい、またそれだけのことだと信じていたのに、今度の機会によって、それがどんなに心の底の方で、漠然宿命的な色を帯びた不安となって潜んでいるのを知ったかとお話ししながら、フト淋しい心持になった。
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