にくわない」と、明かにチブスかも知れないという意味で、重々しく私に囁《ささや》きながらも、その顔にはちっとも当惑したり、失望したりした影は見えなかった。
 かえって、子等のためには何事をも辞さない母親の、火のような愛と反抗的な決心が、あくまでも我子を庇護しようとして猛然と燃え上っているのばかりが気附かれるのを見て、私はほんとうに有難い、またいとおしい心持に撃たれたのである。
 けれども、私の心は昨夜の状態から僅かの変化をも生じていなかった。
 依然として、肯定と否定が妙な形で、各自の位置を保っている。
 そして、道男の熱が下らないこと、私が今年の正月から厄《やく》よけのおまじないだからといって、鱗形のついた襦袢《じゅばん》の袖を着せられていること、父が彼の厄年の年末に、突然最愛の妹を失ったという事実などが、皆一緒になって、恐れている肯定の味方につき、厄年などということに因襲的な、また迷信的な不安を感ずる心を頭から冷笑する心持と、目に見える負け惜しみが、やっきとなって、悲しい考えを揉《も》み消そう揉み消そうと、いきり立っているのを感じたのである。
 大人に何か云われた子供が、それはそうだ
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