らそうと努力する意志が強いにも拘らず、心のかなり大部分は、それを肯定するような傾向にあるのを知ると、なおさら恐ろしいような妙な心持になってしまった。
そこでは、否定する意志と、肯定したより広い何物かは、もう対立という関係を破っている。
静かに落着いた、そしてかなりまで澄んだ何物かが、動かすべからざることとしてそのことを肯定している前で、まるで脳味噌のない侏儒《しゅじゅ》のような否定が、哀れな、けれども彼自身としては死物狂いの大騒動をしているようにさえ感じたのである。
けれども自分は、天にも地にも三人きりほかいない弟達の一人である彼の、生命に関しての予言を得るほど、精錬され、白熱されたものとして自分の魂を自信することは、とうてい出来なかった。
それはあまりに大事すぎる。ちょっとでもそんな風に考えてみるのさえ、自分としては大それたことだと感ぜずにはいられなかった。
彼にも、父や母にもすまないような心持になりながら私はどうしても消えない妙な心持と苦しい争いを続けた。
二
翌朝になって、熱が七度台に落ちた。けれども、また直ぐに元ぐらいまで昇ってしまったので、私共
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