感じが、漠然と浮み上って来たのである。
すると、その彼の感じは暫くの間、外と同じように暗い心の表面で揺れるようにしているうちに、だんだんその周囲だけがほんのりと明るんで来たと思うと、何かもっとずうっと力の強い別な心持がそれに加わって来るのを感じた。そして、やがてそれはどうだろうかなという確かな意味を持つ危惧の念となったのである。
もちろん、彼の病気はどうだろうかなと思ったのである。けれども、それに続いて起った感じは、純然たる絶望だったのに自分は、思わずハッとした。
最初にあの感じが起ったときから、ここまで動いて来る心の後を附けていた、もう一つの自分の心が非常にあわてたのを感じた。
けれども、なぜ彼は死ぬということが、今頃から分るのだ。妙に反抗的な心持になって自分は考えた。
彼が死ななければならないほど、苦しがっていもしないのに。第一まだ医者さえ来ないでどうしてそんなことが解るのだ。あまり嵐が怖いので、お前はどうかしたな。
私はそのまま笑ってしまうか、さもなければ確かにあまりこわいので調子の狂っているどの点かを見出したかった。
けれども、不思議なことには、そんなにも否定し紛
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