か思わなかったから――私は喘鳴が起ればもう最後だということなどはちっとも知らなかった――しきりに、「早くとっておやりなさい、おやりなさい」と母や看護婦にせっついた。
 皆黙ってその通りにする。
 自分でも手伝ってあげたかったけれども、若し突附きでもすると大変だと思って控えているところへ、注射器をもって入って来た医者の方を眺めた母の顔を見たとき、あの急に衰えたような、痛手に堪えかねた負傷者のような表情を見たとき、自分はグラグラとした。
「アアもう駄目だ」
 手と足が一どきに氷のように冷たくなってしまったけれども、心だけは一層大きな眼を見開いた。
 いくら、取ってやろうとしても、もう絶望だということを知らなかった自分が、いつものように単純な調子で、
「おかあさま、早くとってやるといいわ、苦しそうよ」と云ったことは、母にとってどんなに苦痛だったかということも考えられた。
 泣くどころではない。
 殆ど憤怒に似た表情を浮べたたくさんの顔は、一生の記憶に遺したいため、できるだけ多く、よく彼の「生きている顔」を見ようとする真剣さに、つかみかかりそうな緊張をもって彼を見据えている。
 自分ではまるで
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