出さずにはいられなかったほど、律動的なものであった。
 高音が急速な優しみのある旋律で旋行して行くにつれて、全く、八度の重々しい低音の、男性的な協和音程が息もつかせず強調して行く。そして、やがてd'[#「d'」は横組み]の夢幻的な顫動《せんどう》のうちに落着く、あの響を想起したとき、私は命の、あまりの麗《うる》わしさに心を撃たれた。
 淡い秋霧に包まれた桐や棕櫚《しゅろ》が、閉めた窓々を透して流れ出る灯に、柔かな輪郭《りんかく》を浮かせている静かな、ぬれた病院の中庭を眺めながら、自分は魂のささやかな共鳴りを感じた。大変歌いたい心持になったけれども、適当な歌詞も声も持たない自分は、ただ心のうちで「限りなく麗わしきいのちよ!」と讃えることほか知らなかった。
 腰髄刺穿によって期せられていた、僥倖《ぎょうこう》の百万分の一ほどの微かな望みも絶えて、十九日の夜半から二十日の黎明にかけて、脈搏はグングンと増加して、六時頃熱は七度八分なのに対して、脈は百二十という差を現わした。
 そして、最後の徴《しるし》である喘鳴《ぜんめい》が起り始めたのである。始め私はただ痰《たん》が喉にからまっているのだとほ
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